第8回健康セミナー「日本から見たデンマークの保健医療」より


2006年8月18日    
菅沼隆 立教大学経済学部教授 

1970年のOECD調査では、デンマークの平均寿命が先進国の中でも第8位(日本は当時21位)であったのが、1990年には21位と下がってしまった。一方、日本は現在、世界一平均寿命が長いとされている。健康寿命でもデンマークは短く、日本は世界で最も長い。この背後にあるデンマークの保健医療とどう関連があるかを菅沼教授が調査され、日本の医療構造との比較から分析された。

日本では、社会保険制度のもと、開業医・医師を患者が自由に選択できるが、デンマークでは税を財源としており、一般医(家庭医・かかりつけ医)を通じて受診することになっている。病院も県が管轄しており、原則として患者が病院を選択することはできない。このため病院間の競争もない。日本では、診療報酬が出来高払い制であり、待機期間問題はほとんどない。だが、医師・看護師は連日超過勤務を強いられている。これに対し、デンマークでは、医師、看護師は週37時間勤務の原則があり、医療スタッフの供給がフルに活用されていない点から、病院の待機期間(vente list)などの問題が出ている。税金でまかなわれるということは、医療サービスを平等に提供する点では優れている。だが、予算の枠内で内容が決められ、実際の需要に応じた供給となっていない。デンマークはかつて、医療部門では世界の先端を行っていたのだが、1970年代半ば以降、保健医療費の抑制が採用され、今や先進国の中で、最低の保健医療費の伸びを示している。ただし、日本も医療費の伸びが最も低い国の一つであることも忘れてはならない。費用抑制の「しわよせ」が日本では主として医師や看護師に現れているのに対し、デンマークでは患者に現れている。

デンマーク人の平均寿命が伸び悩んでいる原因として、平均寿命委員会は、不健康なライフスタイル(高喫煙率、高アルコール摂取量、運動不足)を挙げているが、とりわけ女性の喫煙率の高さが、平均寿命を短くする大きな要因であると指摘している。また、菅沼教授の私見として、デンマークでは予防医療(検診・健康指導等)体制が不備であり、日本人と比較して自分の健康状態を知らない者が多いことを指摘された。また、デンマークの一般医の診療は、治療的機能よりも診断的機能に重点が置かれていることも指摘された。

さらに、菅沼教授は、社会的要因が寿命に影響を与えていることを指摘し、社会的活動に積極的に参加している者ほど健康寿命が長いことを指摘した。また、日本型食生活が健康によいことは明らかであり、日本政府の「食生活指針」は大いに参考になるという。

それでは、デンマークに住む我々日本人は、どのようなことに心がけるべきなのか、菅沼教授は結論として以下のような点を挙げられた。

1.食生活と社会生活そして運動が重要であること。
2.デンマークに住む日本人は遺伝的には日本人であること、社会的文化的に弱者になりがちであることを自覚すること。
3.食生活に気をつけること。1970年代に、伝統的な日本食に加えて、タンパク質と脂質の摂取量が増大し、日本人の食生活はほぼ理想的なものとなった。このような日本型の食生活を心がけるべきである。
4.家族や社会参加等の社会生活を保つべきであること。体を健康に保つには、精神面の健康が極めて重要であり、独り暮らし、閉じこもり生活、趣味のない生活などを避けること。
5.健康作りのための運動を続けること。歩行であれば、一日8,000~10,000歩が目安。テニスやジョッキングであれば毎週約35分間、速歩では一時間半の実施が目安。また、体脂肪率、BMI(Body Mass Index 体格指数)などを計測できる体重計に毎日乗ることも有効。

菅沼教授はpower point を使用され、しかもゆっくりした説明で大変わかりやすかったです。

(文責 ヘアマンセン暢子)