ARIGATO企画講演会 第六回健康セミナー「感染症とは:風邪からAIDSまで」
講師:濱砂良一先生
第6回健康セミナー「感染症とは」が、2004年10月28日木曜日(18時~20時)、日本大使館インフォメーションセンターにて、開催されました。講師は宮崎大学医学部の濱砂良一先生で、第4回健康セミナーと同様、大変楽しく分かりやすい講演を再び聴かせていただきました。当日は悪天候にもかかわらず、約30名の方が参加され、その後、多数の質問もあり、2時間があっという間に過ぎてしまいました。
今回は「風邪」と「AIDS」、「細菌」と「ウイルス」を中心に、お話を伺いました。
1.感染症とは
病原微生物が生体内に侵入、繁殖し、生体に害を及ぼしている状態のことをいいます。
2.病原微生物
主な病原微生物のなかで、細菌とウイルスは以下のように大きく違います。
(1)細菌
構造は単細胞で大きさはウイルスより大きく (1/100 ~1/1000mm)、自己増殖します。
(2)ウイルス
構造は遺伝子と蛋白質でできており、細菌より小さく(1/10000 ~1/100000mm)、増殖に他生物の細胞が必要です。
(資料1、2参照)
3.風邪症候群とその原因
風邪症候群とは、数々の病因、とくに初期感染の約80%はウイルスが原因による症候群のことをいいます。症状としては、くしゃみ、鼻汁、のどの痛み、咳、痰が出るなどで、多少、発熱、頭痛、全身の倦怠感、食思不振といった全身症状も伴います。時には、嘔吐、下痢等の消化器症状を伴うこともあります。急性に経過して、おおよそ一週間で普通は治癒に向かいます。
感染症候群の原因としては、普通感冒(common cold)とインフルエンザに大きく分けられます。普通感冒の場合は、多種多様なウイルス、細菌によってひきおこされるため、それぞれの原因に応じた特効薬を限定するのが非常に難しく、そのため、一般に風邪に効く薬はないといわれています。しかし、インフルエンザの場合は、比較的限定されたインフルエンザウイルスによって、ひきおこされるため、インフルエンザの予防注射は、効き目があります。
4.インフルエンザ(influenza, flue)
インフルエンザとは、インフルエンザウイルスによる呼吸器感染症のことをいいます。1~3日の潜伏期を経て、悪寒戦慄を伴う高熱、全身倦怠感を伴って、急激に発症します。咳や鼻汁等の呼吸器系症状や、下痢、嘔吐、腹痛などの消化器症状を伴うことが多いです。筋肉炎を起こすこともあり、筋肉痛がおこります。インフルエンザの場合、特に、乳幼児、高齢者、基礎疾患を持つ人々は、重症になりやすく、時に死因となることがあるので、重大な注意が必要です。(資料3参照)
5.風邪の治療
風邪症候群は一次性なら(ウイルス性の場合)自然治癒例も多く、まず、安静にし、十分な栄養、水分補給に注意し、うがいをすることをお勧めします。ビタミンCをとるのがよいというお医者さんもいます。
対症療法として、のどの痛み、発熱には解熱鎮痛剤、鼻づまりには抗ヒスタミン剤、去痰剤鎮咳剤などが使われます。
ただし、肺炎、気管支炎、中耳炎などのような、細菌二次感染の合併症がある場合、抗生物質の併用もあります。
インフルエンザは咽頭拭い液や鼻腔拭い液にて検査され、ワクチンの予防接種が有効です。小児の場合、アスピリン系解熱鎮痛剤により、インフルエンザ脳症の危険率が上がるので、大変注意が必要です。
6.HIV感染症(AIDS)
HIV(human immunodeficiency virus) ヒト免疫不全ウイルス
AIDS (acquired immunodeficiency syndrome) 後天性免疫不全症候群
AIDSとはHIVが人に感染した結果、主に細胞性免疫が障害されて免疫不全状態となることです。ニューモシスチスカリニ肺炎、カンジダ症、サイトメガロウイルス症、トキソプラスマ感染症のような日和見感染症を合併したり、カポジ肉腫や悪性リンパ腫などの二次性悪性腫瘍を発生したり、あるいは痴呆や骨髄症などの神経障害をきたす病態をいいます。
2001年末の報告では、世界には約4千万人のHIV感染者が生存しています。現在でもHIV感染者はアフリカを中心に増えており、日本は先進国の中で、唯一、HIV感染者が増えている国です。
7.HIV感染症の治療
HAART療法(highly active antiretroviral therapy)の有効率が高く、抗HIV薬が2種類以上併用されます。この療法により、ウイルス量が減少し、免疫が回復し、死亡率も減少します。しかし、短所としては、長期に服用する必要があり、飲み忘れた場合はその効果が弱まります。高価な治療法でもあり、副作用としては、肝障害、血糖上昇、出血傾向、骨粗鬆症、皮疹、食欲不振、嘔気、嘔吐、下痢、口内炎などがあります。
8.HIV予防のために
日本でも、HIV感染者報告数は急激に増加しており、報告されていない感染者数を含めると、実際はその十倍ぐらいの感染者がいるだろうといわれています。HIV及び性感染症に関して正しく学ぶと同時に、その予防のためにはコンドームの使用が有効です。子供は普通、本当のことを知りたがっているので、子供に対しては、正しい、ストレートな性教育が早急に必要です。同時に大人(特に男性) にたいしても、HIV及び性感染症に関する教育が必要で、多数との無防備な性的接触をさけ、HIV及び性感染症を家庭に持ち込まないよう認識を深めてもらうことが必要です。
今回、誰でも一度はかかる身近な「風邪」の問題から、性感染症を通して、実はもっと身近に考え、正しく学ばなくてはならない「AIDS」の問題まで、楽しく分かりやすいお話を伺いました。濱砂先生、帰国直前のご多忙なところ、本当にどうもありがとうございました。
(文: 陸川 ゆかり)