第4回健康セミナー


「排尿障害について」


ほらっ、おしっこ我慢してないで早くトイレに行ってらっしゃい!膀胱炎になるわよっ!」なんてセリフ、みなさんも一度は母親から言われた記憶があるのではないでしょうか?そんな膀胱炎はどのようにして起こるか御存知ですか?
2004年1月22日木曜日、コペンハーゲンの日本大使館インフォメーションにて、宮崎大学医学部の濱砂良一先生による「排尿障害について」の講演が行われました。

 

「排尿障害」と言ってもすぐにはどのようなものであるか思い浮かばないと思います。今回、中心となったのは「膀胱炎」や「前立腺ガン」の話題でした。

「膀胱炎」

「膀胱炎」って主に女性の病気だってこと御存知ですか?若い男性では、膀胱炎になることは非常にまれです。膀胱炎というのは膀胱にバイ菌が入っておこる病気です。男性と女性では膀胱から尿道への長さが違い、14~18cmの男性に比べて女性の場合は2~4cm。この長さがその秘密です。バイ菌がおしっこで流れてしまう男性に比べて、距離の短い女性はすぐに膀胱に菌が入りやすい。このため女性の方が膀胱炎にかかる確率が高いのだそうです。膀胱炎になると、排尿時に痛みがでたり尿が近くなったりします。

膀胱炎にかかりやすいといわれている職業として看護婦、キャビンアテンダントがあげられます。理由としては、長時間勤務による水分摂取不足。排尿の我慢などがあげられます。また、高齢者の膀胱炎では他の病気が原因であることも多いので、専門医の診察が必要です。

さらに、女性の場合は膣と尿道が近いため、性交時に尿道に菌が入りやすいのだそうです。膀胱炎の予防のためには性交後には排尿を、と言われていました。

「前立腺肥大症」

膀胱炎は女性の病気ですが、男性が気をつけたいのが前立腺の病気です。前立腺は膀胱の入り口にある臓器で、主に精液の一部を作る器官ですが、その詳しい機能に関してはまだ解明されていません。ちなみにこの前立腺は女性にはありませんので、女性には前立腺の病気もありません。
この前立腺の病気としてあげられるのが、「前立腺肥大症」と「前立腺ガン」です。前立腺肥大症はひどくなると腎臓に影響を与えることもあります。前立腺肥大症は、前立腺が大きくなってくる病気で、肥大した前立腺が尿道を圧迫するために尿が出にくくなり、ひどくなると尿が全く出なくなることもあります。

この前立腺肥大症に、世界中で使われている有効な薬があるのですが、そのパテントは日本の山之内製薬が持っています。日本での薬品名は「ハルナール」ですが、デンマークではYEU社の「OMNIC」と呼ばれています。もとは血圧を下げるための薬として開発されたもののため、その副作用として血圧の低下や、めまい、立ちくらみなどが起こることがあります。又、前立腺の肥大を縮小させるものではなく、症状を抑える効果があるものです。この薬を使っても良くならない場合は、内視鏡を使った手術を必要とします。

前立腺肥大症は50歳ぐらいから見られるようになる病気で、その予防法は現在ありません。日頃の注意として、刺激物やアルコールは避ける、長時間の自転車や堅い椅子に長く座るなどの前立腺を刺激するような行為を避ける、冷えるところで長時間過すことを避ける、などが挙げられます。しかし実はこれ、デンマークでは難しいことですよね。

このような日本とデンマークとの環境や食生活の違いは、やはりその他の病気にも大きく影響しています。前立腺ガンの発生率は、日本に比べると欧州では約3倍、米国では約5倍近くも多いのだそうです。それらは主に食生活の違いによると考えられています。もちろん欧米諸国で暮らす日本人は、日本で暮らす方々よりもその発生率は高くなります。

「前立腺ガン」

前立腺ガンの症状は前立腺肥大症とほぼ同じですが、この他に、早い時期に骨やリンパ節に転移を起こすのが特徴です。前立腺ガンは比較的若いころに発生するといわれていますが、かなりゆっくりと発育するため、高齢になり症状が出て初めて発見されることが多いそうです。治療法には手術、放射線療法、ホルモン療法がありますが、ホルモン療法や放射線療法がよく効きますので、前立腺ガンは比較的共存できるガン、と言われています。転移の可能性がすくなかったり、高齢になると手術が行われないことが多いのだそうです。

最近では天皇陛下がこの前立腺ガンの手術を受けられたと話題になりました。他にも歌手の三波春夫さんも、この前立腺ガンで亡くなられております。

前立腺ガンの主な原因は加齢と遺伝によるものらしいのですが、予防法は正確には明らかになってはいません。主に注意したいこととして、野菜をたくさん食べるとともに、肉類や乳製品を控え、動物性脂肪の摂取を減らすように食生活面での努力をするということ。また、PSA(前立腺特異抗原)の血液検査により、早期発見が可能ですので、50歳を過ぎたら年に1回、PSAの検査を受けましょう、と言われておりました。

そんな「排尿障害」についての健康セミナーですが、この日の講演は濱砂先生の熟練されたプレゼンと巧みな話術で、会場からは何度も笑いが起こりました。そして楽しみながらも、排尿障害における病気の怖さや注意を学ぶことができました。

病気の知識だけでなく、濱砂先生の楽しく分かりやすい講演を聴かせていただき、プレゼンテーション技術などもとても勉強になりました。普段日本にいてはなかなかこのような機会に参加することはできません。デンマークのさほど広くない日本社会のなかで今回のようなセミナーを開催していただき、参加拝聴させていただいたことをとても感謝しております。
最後に、素敵な講演を聴かせていただいた宮崎大学・濱砂良一先生と、「ARIGATOU Tak til Danmark」に心からお礼申し上げます。ありがとうございました。

(文:小山 展宏)